一人旅写真 3

kaelshojo2006-08-25


何のボールかビーチボールほどで透明な、とにかくその少年はボールを追いかけるのに夢中でした。


たまたま盆祭りの最中で、ものすごい人でした。
その渦中にいた少年です。


祭りに集まる人々は、それぞれに寄りたい出店があって、話したい人がいて、見たい提灯があって・・・と、テンでバラバラな動きをしているわけですが、その少年だけは、ずーっと、ただひたすらボールを追いかけるだけです。


祭りの生み出す無秩序の中で、僕はその少年のボールを追い続ける不思議な一貫性がありました。
祭りが一匹の大きな動物だとしたら、少年というのはその動物を形作る小さな細胞の一つ。つまり、動物の行動を決定していく秩序の、端的なサンプルです。


祭りがマクロで、少年がミクロ。


僕は顕微鏡で細胞をのぞくように、ボール少年を眺めていました。
彼の仕草や声の一つ一つに、祭り全体が連動しているようすは圧巻です。



こういうとき僕は決まって、「妖怪を見た!」と、いう感覚に陥ります。
ボール少年を通して祭りの全体の輪郭をなぞり、やがて一匹の巨大な獣の姿が現れたとき、それは妖怪なんです、きっと。