消しゴムとエンピツの行く先
毎日毎日使うから、一日として同じ形を留めていることはない。
使う者の意思に削られるように、消しゴムもエンピツもすこしづつ消耗していく。
消耗していく。というよりは、白いゴムと黒炭が「書きたい」という気持ちに昇華され、粒子になって空中に舞い飛んでっているようだ。
意思は粒子になる。
その粒子は夢中で書いている間は目に見えないけど、ふっと手を休めて目の前の空気を眺めてみると、自分の意思だったものの名残り滓のようなものがそこに淡ぁく浮いていて、少し愛おしくなる。
自分の中にあったものが、自分から離れて世界に溶け込んで心と無関係になっていく。その情景は決して悲しいことではなく、むしろ安心を覚えるものだ。
自分の中の未解決の意思を、何かを書くことで解決していくことは、自分自身を世界に解き放ちたいからなのかもしれない。
そういう時、手元には消しゴムとエンピツがある。
いつも自分の気持ちの傍にある、お守りのように。
今日も心を削る。
消しゴムがすり減る。
エンピツが短くなる。
それらの粒子は一つの塊になって、風船のように中空に消えていく。
高校生だった僕は、それを学校の机から見送っていた。
そういうことを、少し書いてみたくなった。
お守りを用意しよう。