花粉と風化の粒々の中で
これなら髪の毛に花粉の粉粒がくっ付いて、くしゃみ鼻水に悩まされることはありません。
髪を剃ることは世俗から離れる験(しるし)だと聞きましたが、お地蔵さんの世界では、ちょっと違うようです。
放置され、風化によってその石の地肌に草木の毛を生やすことで、世間から離れていくように思います。
僕は人に見放され、毛の生えたお地蔵さんが好きです。
ただ、お地蔵さんは元々現世から一つ浮いたところにいる存在なので、彼らが彼らのいる次元の世界を離れるということは一体どういうことなのかな、と思いました。
極楽?ではないでしょうね。
高いところに行っても、どこからか田んぼや畑、庭や家、土地を見守る。その目線が高くなっても、お地蔵さんは自分の足元を見てくれている。
人の自愛は限りがあるけど、自分でお地蔵さんの写真を撮りながら感じるのは、彼らの表情の中に、深い深い、底知れぬ眼差しがあるということです。
そしてその眼差しというは、土地を慈しみながら、土地から決して離れることができない呪縛の矛盾を何千年何万年も抱えながら、ようやく手に入れたものかもしれません。
それは等しく、人間の歴史の苦悩とシンクロするものです。
いつか、僕自身、風化によって高い目線を手に入れられることを願っています。写真を撮るのは、そのためかもしれません。
風化する目線と、丸くなった頭。
痒い目を擦りながら、僕はまだまだ永い時間を生きなければいけないようです。