悪魔の血
お好み焼きやさんで夕食をとったのですが、店長の奥さんの趣味で色んな辛味やスパイスが取り揃えられていたんです。
◇黄金の一味、◇DEATH SPICE、とかどれも大抵物々しい名前で、見てるだけで、何だかドキドキしてしまいます。
マッドサイエンティストの実験室というか、黒魔術の祭壇というか、普通のお好み焼き屋なのに、ただそこに悪魔的なスパイスが並べているだけで、空間が一気に閉鎖されていきます。前向きな閉塞。
それがまた楽しかったりするんですが。
で、その中でも、ダントツで辛いという・・・
「悪魔の血」
あくまのち。無防備にひらがなで読んでみると、悪魔が召喚されますもの。
チロ、チロチロ。
最初は弱火で。
ふーん。
「コーラおかわりー。」
厨房に振り向いた瞬間、
悪魔が降りてきました。
言葉で規定できない時間。
顔全体が火に包まれる感じ。
舌の神経が「危機」を感じて、味覚を遮断し。
眼を開いたら、そこに悪魔がいる。
業火の粒子が赤血球に混じって、僕の動脈を駆け巡る。
後悔と悦びは、静脈に乗って。(命のサーフィン!)
血潮の波打ち際で、僕は完全に呪われた!
ああ!辛さに対する賛辞が止まらない!
悪魔万歳!!!
辛い、というのはその都度新鮮な種類の体験で、悪魔の血を啜るということはつまり、誕生を経験するということです。
僕の物語の中で、悪魔は人の舌から生まれてくるものだと思いました。悪魔の血に舐めた舌は、サタンの胎盤になります。
食欲に負けた人間って、大抵悪魔的ですから。
そういう悪魔は、かわいい。とか思いますけどね。