中国人の拾ってくれた切符と、若気のみかん

山の手に乗ってたんですが、品川で降りようとした時、声を掛けられました。

中国人の方に。


「このキプー、お忘れですよ」


あまりに淀みのない日本語だったので、一瞬その方が日本人だと思ったぐらいですが、言葉の奥に潜む抑揚がやはり中国のそれ独特の響きを持ってました。目立ちも鋭い。


実は僕はsuicaを使っているので、切符が僕のものではないことは確かです。

が、床に落ちていたキプーは、都市電車特有の憂いを帯びていて、見過ごせばそのままなものを、中国人は見事に救い上げ、そっと、本当の親切心から僕に切符をくれたんです。


「ありがとうございます」


僕は受け取りました。
“それは僕のキプーです”というスタンスで。


まだ大事にとってあります。二週間は大切にしようと思いました。






あと、商店街でみかんを売る若い女の子がいて、彼女は客の目の前でもりもり美味そうにみかんを食べつつ、

「あああー、美味しいよー美味しいよー安いよー」

と叫んでいました。何か、ラブリー。
食いながらプロモーションする売り子は何気に初めて見ました。意外と爽やかです。


その商店街を後にするとき、背中の後ろの方でまだ彼女がみかんを食べている音が聞こえてくるような気がして、少し泣きそうになりました。




“どうか、中国人が、みかんを買いますように”