笑えない笑顔
笑顔っていうもの、本当に直視できますか?
中目黒に移動するためにタクシーをつかまえて。
運転手さんがムフフと得意そうに“こりゃあこっちの近道を使ったほうが早く着くよねぇ”って。
で、任せるままに住宅の裏の裏の道を蛇行していくと、通行止めがあって、あちゃあ。て感じで。
通行止めの原因は「入学式」でした。ある学校の前を素通りできるはずが、今日に限って「入学式」のために、人が多いのか通行止めになってしまっていたんです。
それでも運転手、仕方ないから、ね、とタクシーはゆるゆると禁止区域を進行していきます。
しん。としてました。入学式の割には人気がなく、不思議な感じでした。
まあ、人はいないし。と、僕も思って。
いたら、
女の子が一人。
歩いていました。
すごい笑顔で。
ぞ。ぞぞぞぞぞ。
鳥肌が立ちました。
その笑顔が怖かったから。
何というか、底がない笑みで。
その余りに意味のない、誰のためでもない究極の笑顔は、見てる人の心をあ!っというまに透明にして、あらゆる意味を吸いとります。
眼が大きくて。
口も大きくて。
耳も大きくて。
鼻も大きくて。
声は出てない。
その女の子の笑顔は全てが大きく、とても真剣に対峙できるものじゃありません。
僕は思わず眼を伏せて、
“どうか僕の運命を吸いとらないで!・・・神様。”
と、拝んだぐらいです。
ぞ。ぞぞぞぞぞ。
看板がありました。
「○○養護学校 入学式」
!あの娘の笑顔は、ああ、本当に純粋だったんだと確信しました。
(彼女が知恵遅れに見えたから純粋に見えたというのでは決してなく、本当に純粋に笑顔だけで存在している“なにか”だと直感して、その正体が心底怖かっただけです)
笑顔というものは、本質的に直視するものじゃないんだと学びました。それが、恋人や家族の笑顔であっても。