空のスカート

「そのスカートは、もうほんの一寸歩くだけで“スュッ”と音が鳴るの。
 
 まるで、
 今ここであなたがスカートを穿いているのに、
 どこか遠くの空にスカートが、ある感じ!」



実際、そのスカートは何層にも布が重ねて織り込んであるから、服が内部に持つ空間の広さはたいへん大きなものなのです。そのスカートを一枚のキルトに伸ばしてしまうとしたら、文字通り、空。を覆わんばかりの広さになるでしょう。


つまり、そのスカートは「空」と同等の空間を持ち合わせている、といういこと。


歩く度に衣の地層が擦れ、“スュッ”という風を生みだし、それは空になって、今君が穿いているスカートはスカートではなくて、空なってしまって、透明に広がってしまっているんだよ、と。しかも永遠に。




これは、vivienne westwood のスカートです。展示会場で見た、彼女のロマンです。



僕は熱烈に、広がりをもった感動を覚えました。空を燃やすような感動です。
ただ、空にマッチを向けても一向に火は付かないから、いつまでもどこか冷めた感じで、その冷静さにいつも熱を吸い込まれてしまいます。


空はvivienneの持つ本質を表していて、vivienne の服を着た瞬間に、vivienne の服という枠組は溶けて消えてしまって、ピュアな空間になってしまいます。

僕等を歴史に飛ばすんです。(基本的に彼女のアイデアは、衣装の歴史における種々様々な形式の天才的な組み合わせによるものです。歴史毎の服の流行が前提に合って、そこから入念に学習して知識を増やしていくことによって、そのデザインの可能性を広げていきます。)


vivienne は、ほぼ全ての時代の衣装に精通しており、彼女の服を着ることは、服の歴史を追体験することでもあります。しかも、どこか特定の時代に固執しているわけではないので、クリーンでニュートラルな状態です。
つまり、vivienne のお洋服を着れば、空から公平に歴史を俯瞰できる位置に立てる、ということです。



そういうポジションに立てるのは、通常、神様。ですよね。




vivienne のお洋服を着ると、神様になれる。




と、いうのは、案外大真面目に考えてもいいことかもしれません。
vivienne はたった2時間の展示の間に、ラブリーなゴシック・ロリータの少女達を一度、神様にしちゃんだと思います。



そこから戻ってこれたら、本当の意味でvivienne のFANなんでしょうね。