オセロ犬

朝4時に、僕は道を帰ります。帰り道。



歩いてると、後ろから二匹の犬が走ってきます。いい犬です。黒と白。
仕付けもきちんとしてそうで、首輪も付けていました。たぶん、いい首輪です。


でも、二匹とも、朝4時にFREEな犬。




黒い犬と、白い犬。

二匹は互いを攻撃するみたいに防御するみたいに、走りながら左右ひっきりなしに交代します。




まるで、オセロの合戦じゃない!




犬が「黒と白」という色を所有しているんじゃなくて、たまたま獣(犬)の形をした黒と白のオセロが、雨に濡れた路面(碁盤)を無邪気に滑っていく、といった印象です。

あまりに流麗な光景だったので、どんな感じか忘れたけど、頭の中で何かの音楽が鳴っていたように思います。




オセロ・ドッグ・マーチ?





ふふ。


雨が重いのか、濡れた道路は本当に沼のように鈍重で、それに道路を覆う闇も深くて、ただそこを凛と走り去るオセロ犬だけが美しく、そうだ、タルコフスキーの映画に出てくる犬は、きっとこんな雨に濡れた野良犬をモチーフにしているのかも、って、ふと確信を得たりしました。愉快痛快悲痛。



オセロ犬は、見事に僕を境界線に見立てて、ただの線に圧縮された僕を挟み込むようにして走り去っていきました。





つまり、相手にされなかったのです。





まず最初に国境みたいな境界線があって、そこの境目で黒と白が対立(差別化)するようなオセロ・ゲームじゃありません。線を引くところから始まる、原始的なゲームです。




午前四時のオセロは、純粋です。



オセロ犬の失踪によって街中に引かれた線は、黒と白が潔く戦った結果として残る、痕跡だな、と思いました。


後悔の無い傷跡です。




僕は、午前4時に、たまたま線に参加できたわけなんですね。奇跡的に。