「牛乳、入れる?」

例えば、そういう言葉を、7年間積み重ねたら、どうでしょう?

毎朝。
誰かがコーヒーを入れてくれて、その誰かは当たり前のように云うのです。




「牛乳、入れる?」




と、一言だけ。


その一言が、2555回(365日×7年分)。繰り返されると、どうだろう?




もう、それは唇です。




唇は、息をしたり、親子丼を食べたり、キスしたり、深くキスしたり、それはそれはもう便利な代物なんですね。


体の中で、性器よりエロチックで、眼球より情報の吸い取り方がエクセレント!
言葉は成長します。文字通り、背が高くなって、世界の見通し方が遠く、深くなります。


「牛乳、入れる?」が、毎朝、自分のからだにゆっくり沈殿し、すこしづつ降り積もって、気持ちを満たしていきます。真っ白くて、尊い幸福です。


その言葉の偉大さに気付いたのが、7年目なんだ、と、その人は云いました。




実話。




2555回、「牛乳、入れる?」は繰り返されて、その人のからだになっていました。

その人の彼女が、毎日、空気のように積み重ねている言葉です。






「牛乳、入れる?」






愛の呪文(笑)聞いたことも無いよ、そんな呪文。



でも、本当に素晴らしい言葉だと、僕は心からそう、思うんです。