片眼の読者
駅の近くにはホームレスがいます。いる駅といない駅があって、僕の職場はいる方の駅で降ります。
今日は、不思議なホームレスを見ました。
片眼の、
片眼の読者です。
まだギリギリの身なりを保っていて、ほとんど生きる希望をなくしながら、しかし未だに何かを失っていない雰囲気。(失うことが前提で、失っていないんです)
そう、
彼は。
本、を読んでいたのです。
片眼で。
そのホームレスは、片眼が瞑(つぶ)れていました。
僅かに覗いた眼も、立派に白濁していて、それが眼として機能していないことは明らかです。
しかし、片方の眼は生きています。
それで、本。を読んでいます。
何を?
何を、読んでいるんだろう?(果たして、片眼で文字に焦点が合っているのでしょうか)
多分彼は、それほど本に意味とか思想を求めているようにも見えません。
ただ、読む。
読む、というスタイルを貫く。
そうすることで、失ってはいけない何かを、辛うじて守っているようにも見えます。
人間としては、最大の葛藤かもしれません。すさまじい戦い。
駅のど真ん中で、ピクリとも動かないで。
東京の生む絶対真空の隙間で、彼は自分自身が尊厳そのものなのだ。という証明を、全力で組み立てています。
彼の手にしている本は、人間プラモデルの、説明書です。
僕は、その人間の成す形而上的な戦闘的構築について、しばし見蕩れてしまいました。
それで僕はたいそう疲れて、スタバでアイスのタゾ・チャイ・ティー・ラテを買って、飲んで、ほっとしました。
こんなにタゾ・チャイ・ティー・ラテが旨く感じたのは、初めてだなぁ。
☆☆ラッキ☆☆
(僕は宇宙の彼方に消えるべきでしょうか?くす)