エスカレーター・シンデレーラー

深夜にベルトは回りません。


エスッカ、レター。エスカレーター。レターを、運ばない回転。


単純に、仕事だったんですね。夜中の12時を過ぎた頃に、代理店に書類を渡しにお遣いに行くのですが、夜中だから当然会社のエスカレーターは機能停止してて(その停止の仕方が全く完璧で、その完璧さがなにかの現代彫刻のように恐ろしく圧倒的なのですが)、ああ、つまり乗っても、僕を上へ運びません。


そりゃあ、当たり前だけど。


でも。


いつも動いてるものに乗って、それが動かないと、奇妙なんですね。体の感覚が。自動的じゃない。自分自身の体が、「うごけ!」といっても、動かない。もしくは、10秒遅れて「ああ、足を前に出してみるか」ぐらいに鈍っちゃうんです。如何に日々僕等が無防備にも、自分自身をエスカレーターに預けているかが、よーく分かります。




動かないエスカレーターに乗ると、一瞬、自分の体は自分のものじゃなくなります。一度なくした体は、怖い。だからこの時ほど、強烈に自分の体の在り処を渇望してしまうチャンスは、他にありません。





深夜零時の・・・魔法。





おい!シンデレラかよ!!!





僕は男だよー。そう、停まっているエスカレーターで、僕は否応無く、自分がシンデレラではなく、ただの単なる男の子だ、という自覚を思い知らされるのです。



ジッ、として。待つんです。魔法がかかるのを。僕が僕でありながら、僕でなくてシンデレラなれるような、魔法。


シンデレラは現代彫刻であるし、世界一ものごとを考えるのが大好きな人のことです。




シンデレラは、哲学者。




夜の停まったエスカレーターで、毎日、寓話は更新されます。