舌を切る

植えたばかりの、挿歯、前から右に三つ奥の歯で、その歯は無感覚です。

舌がそこにあることを感知しないのです、ほんとに。

お腹空いてて、うっかり早い咀嚼で肉を千切ってると、



「ぶチ」



と。音を立てて、舌を噛み抜きます。もう三回目です。

だから、血ぃだらだら。

口の中の加工された肉が、正しく血を取り戻す瞬間で、痛い!痛い痛い!瞬間です。


ヴー!!ちり紙に、想像以上の血液が広がっていて、僕は必死で「痛いの感覚は、脳の生み出す錯覚に過ぎないんじゃもん」と、自分の神経に命令していました。ものすごく痛かったから。





“痛み”という感覚は、その感覚だけを純粋に抜き出したとき、実に不可解で、キュートな感覚だと思います。一体、何のための感覚か。

①自己防衛
②官能

の、いり混じった感覚。いり乱れた感覚。



もうほんっとうに自分が可愛くて、ほんっとうに、自分がにくたらしい。(少女の声が聞こえそうな文句だなぁ・笑)



一生痛みに溺れて血を流していれば、長く少女でいられるようです。
それは、大変大変辛い人生のように思います。




無感覚の歯が、すごい迫力でもって、お口の中から僕の生き方を脅迫します。

もっと痛みを感知しろ!ってさ。