風の台所

風台。逆です、台風。


僕は九州出身なので、毎年やってくる台風には結構馴染みがあって、でも馴染みがあるというのは退屈ということでもあるから(休校になったらですね、雨戸の鎧で閉め切った密室に一日もぐら!)、こどもだった僕はですね、やはり退屈なりにたのしみを添加していました。



それが、風の台所。



「ぴうぴぴう、ぐあー、お腹ぁへったあ、っぴっぴう」



空。全体が空腹で。夏に空腹が限界に達すると、空は怒って、いや、怒ってないです、空腹なのは僕たち人間で、空は純粋キャンパスだから、人間の空腹を反映してくれて、それで台所になってくれて、日本人の空腹を代弁してくれるんですよ、多分。そういう風なことを考えていました。



でも。



料理するものが、ない!




永遠に、空腹です。文字通り、「空」の「腹」やんけ。



ぐうー、が、ぴうー、に変わって、最後にはごうふー、になります。空の台所から、底なしの空虚が飛来します。それも、大量の空虚が。


台風は、本質的に虚しいものです。


でも。そこが大好き。僕の夢は、空の台所で、ご飯を食べることです。眼下に風や雨に狂った世界を見下ろしながら。





なーんつってな。酔うわけないじゃん、僕は破壊神じゃないし、今は何より少年じゃない、ひたすら臆病な日本人だもの。




もし。



もし、空の台所に着席できるなら、そこで僕が望むのは、完全な孤独です。底なしの空腹と、分厚い低気圧に守られた、日本一!の孤独です。


楽しい→虚しい→楽しい→虚しい→・・・の連鎖。これは美大で経験したよ。でも僕は今、仕事をしてます。お腹も、よくへるんです。あは。